15年ほど前から。
難しいのです。
1枚も残すところなく全てのウロコを取り除くことは。
水産加工の工程の中では、ほぼ不可能と言って過言ではありません。
1枚でも残っていれば「ウロコを取り除きました」という表現を、食品業界では使うことができないのです。
これは、私たちのこだわりです。
お客さんに手間をかけさせるようなことは、できることならばこちらで引き受ける。
元来、身欠きにしんは「ウロコが付いているものが新鮮である」という見分け方をされてきました。
これは、江戸時代中盤から北前船での交易が始まり、本州の山間部に主な消費地があるという「身欠きにしん」の特殊性に由来します。
その昔、余市を含む北海道の日本海沿岸で大量のにしんが獲れた頃に製造したものは主に
【本州への運搬用】
@にしんかす・・・にしんを茹でて絞ったかす。肥料・飼料。
A身欠きにしん・・・にしんを二枚に開いて乾燥したもの。食用。
B干し数の子・・・数の子を天日干ししたもの。食用。
Cにしん油・・・石鹸やグリセリンなどの火薬を作った
【地域での消費用】
1・すしにしん・・・にしんを塩と糠でつけこんだもの。糠にしん。
2・にしん切りこみ・・・ぶつ切りのにしんを、塩と麹、唐辛子で漬け込んだ保存食。
漁期が来ると、一気に大量に沿岸に押し寄せてくるにしんは、群れが後から先の集団を押し付けることによって、大量に浜に打ち上げられたりすることも多くあったと資料には書かれています。
すごいですね(笑)
にしんは不飽和脂肪酸やその他栄養素が多く、漁獲・水揚げされてからの鮮度落ちが比較的ゆっくりな魚です。
とはいえ、その莫大な数のにしんを、鮮度保持したまま全てを捌ききるのは難しかったのでしょう。
何日か置かれたにしんは、お互いに擦れ合って鱗がはげ落ちて、身も柔らかくもろい感じになっていきます。そのにしんは「ボーズにしん」と呼ばれ、鮮度落ちしたボーズにしんを身欠きにしんにするとウロコが無く、身が柔らかくボロボロで、腐敗したニオイがするようなものになってしまうことから
「ウロコが付いているものが新鮮である」
という伝承が、今でも残っています。
私たちの「ウロコ洗い落とし」は、二百年近く掛けて受け継がれた鮮度判別方法に挑戦する取組なのですッッ!!!
それを私たちは続けていますッ!!
15年も。
「ウロコを取り除きました」というコトバを商品に使うこともできないままに。
では見てみましょう。
こちらが、カズノコを取り出した状態でのにしんです。
一匹をピックアップしてみましょう。
さらにそこからウロコを取り除いてみましょう。
ウロコがついたまま乾燥すると・・・このようになります。
その結着力は並大抵ではありません。ウロコは乾燥し、薄いビニール片のような質感に変化します。
このようになってしまうと、料理の際に水戻ししてもウロコを落とす作業がとてつもない重労働になります。
もちろん、ウロコを落とさずに調理すると・・・
にしんを食べるときに口の中がウロコだらけになってしまいます。
それを仕方ないとするか、それが嫌でにしん料理を食べなくなるか・・・と言えば、僕はきっと後者の人の方が多いような気がします。
正直言って、生産の過程でウロコを落とすという作業を組み込むことは非効率的ですし、1枚でも残っていればそれを商品にアピールできないとなれば、他の商品との差別化ポイントさえお客さんに伝わりにくいということになります。
さらに、取り除いたウロコの分の重量が最終製品から少なくなるのですから、製造という観点から見れば・・・厳しいことばかりです。

しかし、そのひとつひとつのこだわりがお客さんに届くように、少しでもにしんの食文化を身近に感じてもらえるように、今日も心を込めてウロコを取り除いております。
さてそんな僕が、ネットショップを開始するとしたら
お客様のさまざまな声があろうかと思いますが、
一番最初に商品リストに載せたいのは
私たちのこだわり「ウロコを洗い落として製造している本乾みがきにしん」です。
ネットショップ、もう間もなくお披露目できそうです。
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